文: 橋ノ本 有希 絵:涼野 那須夏
゜背後を振返ってみても、誰もいなかった。
昼間だというのに、車の影ひとつ無いハイウェイ。
ただ一定の間隔に、引かれて在るのだろう白線が、帯を細く見せながら延々と
遠く彼方まで続いてる。
それと、道路脇両サイドの外灯が、だんだんと小さくなりながら、低くなっているのが見えた。
ロディー・レイヒルズは、空を見上げた。青い空に消えてしまいそうな薄い淡い白い雲。
ロディー・レイヒルズは、目を細めた。 辺りは、あまりにも静か過ぎる…。
人ゴミが イヤで。 わずらわしい ゴタゴタが イヤで。
何よりも嫌悪な空気がイヤで。それで旅に出て3日めだった。
人ゴミが イヤで。 わずらわしい ゴタゴタが イヤで。
何よりも嫌悪な空気がイヤで。それで旅に出て3日めだった。
テクテクと…。 ただ黙々と歩きつづけているそんな旅…。
こうなると、少しばかり街(シティー)のざわめきが、
恋しく思えてきたりもしたロディー・レイヒルズだった。
彼は、また歩き始めた。キーン。と、音がして、ロディー・レイヒルズは、また足を止めた。
キーン。また音がして、彼は、耳をそば立ててすました。キーン キーン. キュイーン.
その音は、頭上から聞こえてくる。 ロディー・レイヒルズは、空を見上げた。
別に変わった所はない。青い、青い空が ただ広がっているだけだ。
キュイーン. キュイーン. しかし、何か金属同士をこすりつけて出した様なその音は、
確かに頭上から、聞こえて来るような感じだ。
ロディーは、その音の響きを追って、あわただしく辺りを見回した。不意に彼の両の目が、
頭上から見下ろしている外灯のライトを捉えた。
首が痛くなる程、見上げて、彼は、その外灯のライトに目をこらした。
パカリと開いた口から、大きく息が吸い込まれ、彼は、そのまま静止した。
外灯のライト部分ではなく、その鎌首の首にあたるポールとライトの付け根の辺りが、
不意にチカッと光った。電灯が灯ったわけではない様だ。
どこか異質な感じの光。キュイン. キュイン. キュイン. キュイーン.
その金属音は、次第に大きくなりながら、速度を徐々に増して鳴り響いた。
ロディーレイヒルズは、眼を大きく見開いた。
見上げるライトの本体が、大きく光った。それに呼応する様に、
等間隔離れて並ぶサイドライトがパパパパッ パパパパパパッと、
次々に点滅していく。続いて、参加する様に、
金属音を発信しだしているサイドライト達がまるで大合唱のように唸りを上げた。
うなり溢れる空を見上げながら、ロディー・レイヒルズは、首をかしげた。
気のせいか、先程まで青かったはずの空が、暗くなってきた気がする。
そう見ている間にどんどん空は、暗くなり、浮かび上がる様に明るい星たちが見え始めた。
金属音のうなりは、いつの間にか大音響となって、
ロディー・レイヒルズは、思わず、耳をふさぐのだった。一体ナンだ?! 何が起きている?!
不安が広がる中、無言で、眼を見開いたまま、ロディー・レイヒルズは、キョロキョロとただ辺りを
見回しながら、ただつっ立っている事しかできない。
キューウン. キュウーン. 金属音は、ますます音量を増し、
耳をふさいでいる手を突き破ってくるかの様で、鼓膜が破れそうだ。
と、一番、最初に光り出したライトが、当然、スウーっと、外灯の傘下を離れて宙に舞って、
ふわりと浮いた。
ブオーン. シュイーン.
外灯のポール棒を離れて、宙に舞い浮かぶ ガラス質のラグビーボールの様な
外灯のポール棒を離れて、宙に舞い浮かぶ ガラス質のラグビーボールの様な
それは、ロディーの両の目の高さまで、ストレートに下降して来ると、彼の目の前で、
ピタリと静止した。緊張が走る…。
なんだか解らないが、すぐ目と鼻の先に、得体のしれない物体がやって来ている。
ラグビーボール大の小さな物だが、どんな危害を及ぼして来るかわからない…。
ロディー・レイヒルズは、こわばりながら、ゆっくりと後ずさりしようと身構えた。
シュオーン. その時、かすかな音がして、目の前で、ガラスのラグビーボールの先端が変形した。
というか、なにやら開閉する扉か窓の様な物が開いたという感じだ。
4人乗りなのか、開いた中には、4人の小人の姿が見えた。
小人…『宇宙人?』眼をまん丸く開いたロディー・レイヒルズの頭の中で、
そんな疑問がよぎったその時、雀のさえずりの様な声が頭の中をかけずり回った。
言葉が何を言っているのかは、はっきりわからなかったが、こんな内容の事を話しているのだと
ロディー・レイヒルズは、漠然とそう感じた。
『やぁ、驚かせてしまいましたね。地球の方。 私たちは、これからマイホームへ帰るところです。
この時間、この辺りに地球の方が通られる予定ではなかったので、
驚かせてしまいましたね。驚かせて失礼しました。 それでは、これで帰ります。
さようなら。御機嫌良く。』 いわゆるテレパシーというやつか?
眼をパチクリさせているロディー・レイヒルズの目の前で、扉が閉まる様にして、
小さな人たちの乗り物は、またラグビーボール状に変形した。
そのままスウーと空へ向って上昇していく姿を、
増々、目をまん丸くして見送るロディー・レイヒルズの目の前で、
増々、目をまん丸くして見送るロディー・レイヒルズの目の前で、
立ち並ぶ外灯という外灯の傘から、ライトというライトが ズオンと一斉に浮遊した。
そのライトのひとつひとつが、先程のガラスのラグビーボール球大の乗り物…。
つまりあの小人大の宇宙人たちが、そのひとつひとつに乗っている船なのだろう…。
とてもちいさな小人たち…。 小人の宇宙人の船団…。
驚いた事に道路脇に立ち並ぶ外灯の電灯のライトに張り付いて、もののみごとにもの凄い数の船を
隠していたらしい。そのたくさんの船に乗っていた無数のちいさな宇宙人たち。
彼等が、この惑星に何の目的でやって来ていたか等は、皆目わからない。
もの凄い金属音がして、目の前にやって来たのに、身構えて緊張し、畏れて敵意を持って見たが。
『ただ…。』ロディーレイヒルズは、思うのだった。
『人間だって、見ず知らずの土地へ行って、調査したり、観光したり…
ただ単に、見聞をたのしみたいだけ… だったりするじゃないか…。』
ただ単に、見聞をたのしみたいだけ… だったりするじゃないか…。』
いつのまに自分達の世界観は、未知の世界を恐怖し、相手をよく知りもしないで、
攻撃的になってしまったのだろう…。
敵意は、無いようだったし。すごく友好的な空気すら感じられた。
理由もなく、攻撃されるのではないかと冷や冷やした自分が、
ロディー・レイヒルズは、少し恥ずかしい気さえしてきた。
最後に彼等が向けたしぐさは、おそらくさよならをしていたのだろう。
『ごきげんよう〜』と、エールを送りながら手を振っていた様に感じられた。
ひとつひとつは小さな光の玉の様な彼等の船。
それ等が、船団を組んで一斉に空の彼方へと遠ざかっていく姿は、
蛍火の群れの幻想の様で、凄く美しかった…。
かき立てられる彼方へのロマン…。
「宇宙船…か。」彼等は、きっと自分たちの星(ホーム)へ帰っていくのだろう。
急に、街のざわつきが懐かしく思え、街のざわめきが恋しくなった。私も帰ろう…。
私の住んでいる場所、マイホーム・タウン へ…。そう私が住む…ホームタウンへ…。
今は、街のライトが 恋しい…。
いつの間にか、彼等が去った後の外灯に、本物のライトが点灯していた。
ロディー・レイヒルズは、夜空を時々あおいでは、
外灯の群れの下、またテクテクと歩き始めるのだった。
〜 Fin. 〜
***